2022年3月、下北沢の京王井の頭線高架下にオープンした、京王電鉄の複合施設「ミカン下北」。LUUPのポートが2ヵ所設置され、鉄道という「一次交通」と、マイクロモビリティによる「二次交通」が交差する場所となっています。
「ミカン下北」が取り組む“魅力的な街作り”とは。そして、LUUPが提供できる価値とは。京王電鉄株式会社 開発事業本部 SC営業部の角田匡平さんに話を聞きました。
(取材・文=井上マサキ)
Index
- 街を面白くする「プレイヤー」が集まる拠点を作る
- 鉄道とマイクロモビリティがお互いの移動を補完する
- LUUPで会議室を移動!? 街で働く「ネットワークオフィス構想」
街を面白くする「プレイヤー」が集まる拠点を作る
改めて「ミカン下北」とは、どういった施設なのでしょうか。
「ミカン下北」は、飲食店を中心とした商業エリアと、コワーキングスペースなどのオフィスエリアを有する複合施設です。かつて京王井の頭線の盛土部分だった場所に、「ようこそ。遊ぶと働くの未完地帯へ。」というプロジェクトコンセプトを掲げてオープンしました。
これまで、鉄道会社の開発事業は「駅前に建物を建て、入居者の賃料で収益をあげる」というビジネスを主軸にしてきました。しかし、コロナ禍を経て鉄道の利用者が減少してきているいま、このビジネスモデルだけは立ち行かなくなる可能性があります。
そこで、駅を訪れる人だけを対象とするのではなく、街そのものを魅力的にする事業やサービスを、不動産を起点に展開したいと考えていました。そのひとつが、この「ミカン下北」です。
具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。
街を魅力的にするといっても、私たちの力だけで完結できるわけではありません。特に下北沢には、古くからお住まいの方や、商店街などで商売を続けられている方、演劇をはじめさまざまな活動をされている方がたくさんいらっしゃいます。「下北沢で面白いことを仕掛けたい」という方も少なくありません。
私たちはそうした企業や個人を「プレイヤー」と定義しています。私たちはあくまで、プレイヤーの皆さんのアシストをするという立場。「ミカン下北」に、コワーキングスペースやシェアオフィスといったワークプレイスを設けているのも、プレイヤーの方々が集まる拠点を作りたいという思いがあるからなんです。
なるほど。ただ商業施設を作っておしまいではない、ということですね。
オフィスには、フリーランスやスタートアップの方をはじめ、さまざまなジャンルの方々が集まっています。現在は、コワーキングスペースを起点にしたコミュニティ作りや、一緒に“コト”を起こすための仕掛け(プログラム)の立ち上げなどに取り組んでいるところです。
将来的には、下北沢以外のさまざまな街にもプレイヤーが面白いことを仕掛け、それを見たユーザーもプレイヤー側に回り、さらに街が面白くなっていくといった循環が起きたらと考えています。
鉄道とマイクロモビリティがお互いの移動を補完する
「ミカン下北」には、A街区とB街区の茶沢通り側にLUUPのポートが設置されています。ポートを設置された経緯について教えてください。
東京都の西側のエリアは私鉄各社が東西に延びており、南北をつなぐ“縦”の移動手段は主にバスが担っています。ただ、道が狭かったり、入り組んでいたりするところもあり、バスではなかなかカバーしきれない部分があるのも事実です。
これは京王線沿線も例外ではありません。たとえば私が下北沢と合わせて担当している施設がある京王線の笹塚駅は、ここ下北沢から北へ1.3キロメートルほどの距離にあります。直通のバスはなく、電車で移動するにも3駅離れた明大前駅まで一度出て、乗り換えなければなりません。
下北沢と笹塚のあいだは住宅地になっており、お住まいの方がたくさんいらっしゃいます。この「歩けなくもないけど面倒」という距離をLUUPなどのマイクロモビリティで補えたら、どちらの街にもダイレクトに行きやすくなり、施設としても集客につながるでしょう。そうした思いからポートの設置をお願いしました。
自宅からポート、ポートから駅へと移動がシームレスにつながれば、「LUUPで駅まで行って電車に乗る」という使い方もできそうです。
そうですね。そうした使い方は自転車でも可能なのですが、駅周辺となるとどうしても違法駐輪の問題があります。こういったところでもLUUPが解決策のひとつになるのでは……という期待もありますね。
そうなると京王線の他の駅にも、今後ポートを増やしていくことになるでしょうか。
実際に少しずつ増やしているところです。京王線は駅と駅のあいだが短いところも多く、ここにも「歩けなくもないけど面倒」という距離が存在します。マイクロモビリティの需要はあるはずですし、新たな人の流れは地域ビジネスの活性化にもつながるでしょう。
一次交通である鉄道が「動脈」だとしたら、二次交通であるマイクロモビリティは「毛細血管」であり、お互いの役割をうまく補完し合えると思っています。今後、笹塚駅から西側を高架化する計画もありますし、沿線にさまざまなタイプの街が生まれるよう、人の流れから「街の個性」を引き出すような街作りをしていくつもりです。
LUUPで会議室を移動!? 街で働く「ネットワークオフィス構想」
LUUPを活用した今後の展望などありましたらお聞かせください。
現在稼働しているプロジェクトに、「ネットワークオフィス構想」というものがあります。
おかげさまで「ミカン下北」のオフィス利用者は順調に増えているのですが、人数が増えた結果、コワーキングスペースの会議室が取り合いになっている状況なんです。また、入居者の中には事業を拡大された方もいて、「移転先を探しているのだけど下北沢ではなかなか見つからなくて……」という声も届いています。
私たちの想像以上に、会議室やオフィスの需要がある。ならば、街の中にオフィスを増やして、そのネットワークを作ろうと動き始めているんですね。
なるほど。街中がひとつのオフィスになるようなイメージですね。
「この会議室がいっぱいだから、あそこの会議室を使おう」という状態を街の中に作りたい。ただそうなると、オフィス間の移動が発生します。徒歩でもいいんですが、LUUPのようなモビリティでサッと行ってサッと帰って来られたら、移動時間の短縮になりますし、その分だけコミュニケーションの時間が増やせるはず。「オフィス+LUUP」みたいなプランを作るなど、両者を掛け合わせた仕組みを作れたら面白いですし、オフィスそのものの魅力も向上するのではと考えています。
LUUPの利用者の流れが鉄道の利用に影響を与えているようなことはありますか?
鉄道の乗降客への影響はまだ具体的には見られていないと感じています。下北沢-笹塚間でいえば、両端にポートがあるものの、真ん中のあたりはまだ手薄ですから。こうした住宅地の中にポートが増えてくれば、新たな人の流れも生まれてくるかもしれません。
確かに、いま下北沢-笹塚間は4〜5分歩かないとポートにたどり着かない密度ですね。「1分〜2分ぐらい歩いたらポートがある」という状態が理想ですので、このエリアにはポテンシャルがあると感じます。
ちょうど中間地点に井の頭通りがありますので、この辺りにもっと増えるとどちらのエリアにも行きやすくなりそうですよね。今後も「ネットワークオフィス構想」を進めつつ、LUUPさんと一緒にポートを開拓していくようなスキームが作れたらと思います。鉄道とマイクロモビリティの掛け合わせについては、まだまだ可能性を感じていますので、引き続きご相談させてもらえたら嬉しいです。
※所属や肩書などは取材時(2023年7月)のものです
取材させていただいた方
京王電鉄株式会社 開発事業本部 SC営業部
角田匡平さん