2022年1月、株式会社Luupは豊洲スマートシティ推進協議会と連携協定を締結し、豊洲エリアでの「LUUP」提供をスタート(プレスリリース)しました。次世代の「まちづくり」において、電動マイクロモビリティはどのような役割が期待されているのでしょうか。また、導入から1年が経ち、どのような成果が生まれているのでしょうか。Luupとタッグと組むことになった経緯や、取り組みの内容、今後の展望などについて、豊洲スマートシティ推進協議会の幹事会社である清水建設株式会社の正岡良隆さんと、株式会社Luup 事業推進部の十河昌平に話を聞きました。
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- 豊洲エリアの交通課題解決に向け、連携協定を締結
- 移動データも活用し「にぎわいのあるまちづくり」を実現する
豊洲エリアの交通課題解決に向け、連携協定を締結
豊洲エリアの交通課題解決に向け、連携協定を締結
正岡良隆さん(以下、正岡) 2019年5月、豊洲エリアは国土交通省スマートモデル事業において、先行モデルプロジェクトに選定されました。これを受けて同年11月に設立されたのが、「豊洲スマートシティ推進協議会」と「豊洲スマートシティ連絡会」です。「協議会」は民間企業13社から構成され、「連絡会」はさらに東京都と江東区、芝浦工業大学を加えた産官学の取り組みになります。
豊洲エリアには、地域住民や通勤者、観光施設への来訪者など、多様なステークホルダーが存在します。豊洲スマートシティ推進協議会では、先進的技術と都市OS活用によって、さまざまな分野でサービスやソリューションを提供し、まちの課題を解決する先進的まちづくり・マネジメントに取り組んでいます。
豊洲スマートシティ推進協議会と株式会社Luupが、連携協定を締結した背景について教えてください。
正岡 豊洲エリアを含む臨海部の交通は、ゆりかもめと路線バスという2つの公共交通機関に依存しており、以前より移動の自由度や回遊性に課題を抱えていました。解決策のひとつとして、先行してシェアサイクルが導入されておりますが、弊社では電動キックボードについてもその可能性に着目していました。2018年ごろから全国で体験会や実証走行が行われていましたし、LUUPの車体についてもかなり早い段階で試乗させていただいたんですよ。
十河昌平(以下、十河) そうでしたか! ありがとうございます。
正岡 その後、経済産業省の新事業特例制度の適用エリアに江東区が含まれることになり、ようやく国の制度に基づいて、電動キックボードの実証走行が可能になりました。これを踏まえ、電動キックボードの普及・実装・課題への対応における相互協力を「連携協定」という形で締結したという流れです。
十河 弊社に期待していただいているポイントは、大きく3つあると思っています。1つめは二次交通を活性化し、人の移動を便利にすること。2つめは新たなモビリティについての正しいマナーやルールを啓発し、安心と安全を保つこと。
そして最後の3つめは、ポートや車体の稼働状況などを連携し、移動のデータをまちづくりに活かすこと。これらの取り組みを共に加速させるために、連携協定に至ったという認識です。
正岡 ポートが増えたことで、住民の方や、周辺で働かれている方が利用する姿をよく見かけるようになりましたよね。
十河 この1年はポート設置や安全講習会など、正しいルールやマナーも含めて豊洲の街の中で浸透させることに注力してきました。次のステップとしては、今年7月の改正道路交通法の施行に向けた対応や、隣接するエリアとの接続などを考えています。お台場-豊洲間の移動をもっとシームレスにするなどして、お互いの賑わいを混ぜるようなことができたら……と思っているんです。
正岡 面白いですね。私たちが今いるミチノテラス豊洲も、陸海空の交通結節点として水上バスやBRT(Bus Rapid Transit=バス高速輸送システム)によるアクセスを充実させる予定です。電動キックボードをはじめ、さまざまな移動手段を組み合わせれば、より広範囲な移動が可能になるでしょう。協議会としても、観光者向けの周遊パスのような取り組みを視野に入れているところです。
LUUPの導入について、住民や観光客など街の方からの反響はありますか。
正岡 試しに乗ってみたという方々からは、年齢を問わず「気候のいい時期には気持ちよく走れる」と歓迎の声をいただきました。道も広いですし、開放感があって走りやすいのではと思います。
十河 データを見ると、20代から30代の方の利用が多いですね。豊洲駅から豊洲市場への流れや、月島・勝どき・門前仲町などへの動きも見えます。住民だけでなく、チームラボプラネッツやWILD MAGICなどに遊びに来た方も結構乗られている印象です。
正岡 一方で、現状は車道や自転車レーンのみ走行可能という条件から、「交通量の多い幹線道路や橋を走るのは怖い」という声もありました。この辺りは、今年7月の法改正で時速6km以下であれば歩道の走行が可能になると、また風向きも変わるのではないでしょうか。
十河 現在の道路交通法では、公道を走る際に運転免許が必要なのですが、7月の法改正で16歳以上は不要になります。外国人の方も乗れるようになりますので、また新しいニーズや人の流れが生まれそうですよね。ただ、改正のタイミングでは利用者の皆さんも「ここを走っても大丈夫なのか?」と混乱されるはず。引き続きさまざまな手段で正しいルールの普及に努めていきます。
移動データも活用し「にぎわいのあるまちづくり」を実現する
豊洲スマートシティ推進協議会が感じる、LUUPの魅力についてお聞かせください。
正岡 移動データが活用できることは魅力のひとつです。豊洲スマートシティ推進協議会では、日々の人の流れや滞留の情報を取得し、データベース化する取り組みが進んでいます。このデータを分析すれば、過去の特定の日の混雑状況を可視化することも、未来の人流の予測も可能です。来年2月にオープンが予定されている「千客万来施設(仮称)」をはじめ、豊洲エリアの発展ともに人の流れがどう変わるのか、Luupさんと組むことで予測の精度をさらに向上できればと。
多様な方が多様な目的に応じて、移動手段を選択できる環境を整えることが、協議会のひとつの役割です。電動キックボードをはじめマイクロモビリティの活用は、豊洲エリアにおける移動の自由度を高めるうえで非常に重要だと考えていますので、安全かつ快適に利用していただけるよう、今後も連携しながら取り組めればと思っています。
十河 弊社のデータベースには、利用者がどの時間帯にどこからどこへ移動したかといったデータが日々蓄積されています。この移動データが、購買や宿泊といった街のデータと結びつけば、混雑状況の予測や、「ポートに人が集まる時間帯にキッチンカーを誘導する」といった活用もできるでしょう。移動データが、まちづくりにどのように活かされるのか、私たちもワクワクしています。
最後に、今後の展望について教えてください。
十河 連携協定からの1年間で、豊洲エリアの周遊を促すなど、エリア内の移動を便利にするところは形になってきたと感じています。次は月島や勝どきなど、隣接するエリアへの移動もつないでいきたいですね。移動データの活用も絡めて、まちづくりの新たな試みに貢献できればと思います。
正岡 豊洲エリアの水辺には、「豊洲ぐるり公園」という大変気持ちのよい空間があるんです。もし将来的に公園内も安全に走行できるようになれば、人の流れも大きく変わるのではと期待しており、今後江東区などに協議会からも働きかけていきたいと考えています。
また、豊洲エリアには公開空地(=ビルやマンションの敷地内に設けられた広場や遊歩道など、一般の人も自由に出入りできる空間)が多いのですが、公開空地へのポート設置には各区市といった自治体がシェアモビリティ事業として実施している必要があります。コミュニティサイクルと同様にポートが設置できるよう、要望していきたいですね。
十河 公開空地については、住民の方から「ここにポートがほしい」とご要望をいただくこともあり、非常に心苦しい思いをしている側面があります。ニーズに応えるためにも、ぜひ一緒に取り組ませていただければ。
正岡 「豊洲スマートシティ推進協議会」は産官学が集まる会議体です。その強みを生かしながら、エリア内でより安全かつ自由な移動ができるよう実証を進めていきます。その結果として、にぎわいのあるまちづくりを実現し、豊洲エリアの魅力を一層高めていきたいと思っています。
取材・文=井上マサキ
取材させていただいた方
清水建設株式会社
正岡良隆さん
株式会社Luup 事業推進部
十河昌平