2021年10月、株式会社Luupは東京海上ホールディングス株式会社(以下「東京海上」)と資本業務提携し、同社のグループ会社である東京海上日動火災保険株式会社(以下「東京海上日動」)と電動キックボードの安全性向上に向けて協業を進めています。
資本業務提携に至った経緯や、さらなる安全性向上を目指す取り組み、そして地方創生なども含めた今後の展望について、東京海上日動 マーケット戦略部・地域連携室の亀山航介さんと、株式会社Luup広報・渉外部の國井さくらに話を聞きました。
(取材・文=井上マサキ)
資本業務提携により、マイクロモビリティ領域の新たな価値提供を目指す
東京海上日動の事業内容について、改めてお聞かせください。
亀山航介さん(以下、亀山):弊社は1879年(明治12年)に創業した、日本で最初の損害保険会社です。「お客様や地域社会の“いざ”という時を支える」というパーパスに基づき、損害保険を中心に、新たな社会課題への対応に取り組んできました。
1914年には日本で初めて自動車保険を発売したほか、生保と損保一体型の「超保険」をはじめ、創業から100年以上、さまざまな商品やサービスの提供を行っています。2016年には地方創生に関する専門部署を立ち上げ、地域課題の解決や、企業の健康経営支援などに取り組んでいます。
東京海上日動とLuupが資本業務提携した背景について教えてください。
亀山:東京海上では、MaaS(マース:Mobility as a Service)やヘルスケアなど、新たな社会課題に関するサービス開発をグループ一丸となって進めています。そんななか、近年注目されているマイクロモビリティの領域についても新たな価値提供を目指し、Luupと資本業務提携をさせていただきました。
新たな社会ニーズの変化には、必ず新たなリスクが伴います。そうしたリスクに対する不安を解消し、サービスの普及を促すことも、損害保険会社の大事な役割であると認識しています。
また、「安全性の向上」を重要視されていたのも、提携に至った理由のひとつです。弊社の経営理念は、「お客様の信頼をあらゆる事業活動の原点におき、『安心と安全』の提供を通じて、豊かで快適な社会生活と経済の発展に貢献します」というもの。目標と価値観が一致したことは、やはり大きかったと思います。
國井さくら(以下、國井):ありがとうございます。Luupとしても、東京海上日動さんの「『安心と安全』の提供」という経営理念にはとても共感しています。安全の取り組みや事故に対する保険・補償といった面でご支援いただくとともに、事故や違反を未然に防ぎ、ユーザーの皆さんにより安全に使っていただけるような取り組みを、両社で進めていけたらと考えています。
電動キックボードの安全性向上に向け、ガイドブック制作や安全講習会を行う
2021年10月の資本業務提携から、これまでの両社の取り組みについてお聞かせください。
亀山:電動キックボードは手軽で便利なモビリティである一方で、交通ルールなどの認知がまだ十分とは言えない状況です。そこで、電動キックボードの安全性や社会受容性をさらに高めることを目的とした活動をしています。
まず取り組んだのが「ご利用ガイドブック」の共同制作ですね。電動キックボードの基本情報や交通ルールなどをまとめたもので、これを用いて共同で安全講習会を行っています。
國井:ガイドブックは、自治体や警察の方と会話する際にもお配りしています。自治体の方からは「今度こういう講習会があるから、そこに持っていってもいい?」とお声がけいただくこともあるんです。東京海上日動さんという大きな会社と、「紙のガイドブック」という手触りのあるものを作れたからこそ、生まれたつながりもあると感じています。
Luupと東京海上が共同で開催する安全講習会は、これまでどのようなところで行ってきたのでしょうか。
國井: 東京・丸の内やお台場のほか、大阪や神戸といった関西エリアでも実施しました。新エリアにサービスを拡大するときに、一緒に開催させていただくことが多いですね。私たちはLuupのTシャツを着て、東京海上日動さんは……。
亀山:真っ黄色の「カナリヤTシャツ」で参加しています(笑)。私自身も、社外の立場ながらLUUPの乗り方を教えたりしているのですが、参加者の皆さんが本当にワクワクしていて、LUUPに乗るのを楽しみに来られたのだなと感じます。年配の方から「こんなに乗りやすいんだね」と感想をいただいたのも印象に残っていますね。
國井:安全講習会は、「乗ったことはないけれど興味はある」という方にLUUPを見ていただく機会でもあります。実際に車両を触っていただいて、安全への取り組みをお伝えすると、やはり安心していただけますから。「家族に勧めてみるよ」といった声を聞けるのはとても嬉しいですし、こうした機会があって良かったと思いますね。
2023年3月には、新たに安全啓発のポスターを共同制作されています。
亀山:飲酒運転や二人乗りといった交通違反をはじめ、改めて電動キックボードの交通ルールを周知しようと、新たに「#ShareSafety」という取り組みを始めました。その第1弾がこの安全啓発のポスターです。LUUPの一部ポートに設置された看板に掲出されていますので、利用される方に立ち止まって見ていただけたらと。
國井:禁止事項を伝える厳しいメッセージをイラストとコピーでシンプルに表現しました。あまり堅苦しくなく、若い方にも自分ごととして捉えていただけるようなテイストにしたかったんです。
亀山:かわいいイラストで、それでいてハッとする感じですよね。
國井:そうですよね。ちょっと友達に話したくなるような感じに仕上がって、私も気に入っています(笑)。
地域の移動課題を解決し、さまざまな街で愛されるサービスに
現在Luupの電動キックボードは、保険ではどのようにサポートされているのでしょうか。
亀山:LUUPご利用中の事故には、ユーザーに対して損害保険が適用されます。傷害保険と賠償責任保険について保険付帯していただいていますので、万一事故が起きた場合は、LUUPカスタマーセンターにご連絡いただくか、夜間の場合は我々の事故受付センターまでご連絡いただければ。24時間365日、昼夜ともに即時対応できる体制を敷いていますので、安心してご利用いただければと思います。
LUUP利用中の事故について、再発防止などの取り組みにはどのようなものがあるでしょうか。
國井:2023年2月に、Luupと東京海上、そして公益財団法人交通事故総合分析センター(以下ITARDA)と共同で、電動キックボードの交通事故分析に関する調査研究を開始しました。事故の分析には、第三者機関も含めた調査・分析が必要という判断からITARDAと提携に至ったものです。
ITARDAと事故の分析・調査方法を確立し、電動キックボード本体の安全性能強化などにもつなげていければと考えています。
最後に、今後の展望についてお聞かせください。
亀山:交通ルールの変更などに合わせ、ガイドブックのアップデートや、安全講習会のさらなる実施など、安心安全に向けた取り組みをさらに加速させています。
國井:2023年7月の改正道路交通法の施行など、ルールががらりと変わるケースをはじめ、今後も継続的に、東京海上日動さんと一緒に新しいルールを改めて周知する機会を設けられるよう取り組んでい来たいと思います。
また、今後は全国に向けてサービス提供エリアを拡大していく予定ですので、全国47都道府県に拠点を持つ東京海上日動さんの知見を共有いただき、さまざまな街で愛されるサービスへと成長させていきたいですね。
亀山:地域における移動課題を解決する新たな手段として、LUUPというサービスはさらに注目されていくと思います。私が所属する地域連携室は、地域の社会課題の解決を目指す部署ですので、一緒に解決に取り組めるのは心強いです。
新たな交通ルールや被害者救済の観点等を踏まえながら、将来的には電動キックボードの利用における適切な補償のあり方も検討していく予定です。保険として後押しし、地域に選ばれるサービスとして、共に成長を重ねていければと思います。
※所属や肩書などは取材時(2023年5月)のものです
取材させていただいた方
東京海上日動 マーケット戦略部・地域連携室
亀山航介さん
株式会社Luup 広報・渉外部
國井さくら